協会について

危機管理マニュアル

日本車いすカーリング協会 危機管理マニュアル

Pfd版:危機管理マニュアル.pdf

2024 年  月  日版

1.   危機管理とは

そもそも、危機管理とは何を指すのであろうか。 ここでは、スポーツ庁が作成・公開している「スポーツ団体向けモデル危機管理マニュアル(改訂版)」(以下「モデル危機管理マニ ュ ア ル 」 と 呼 ぶ ) に 基 づ い て 整 理 す る 。 

( 参 照 : https://www.mext.go.jp/sports/content/20210318-spt_sposeisy-000013551_2.pdf )モデル危機管理マニュアルにおいて、危機管理は以下のように定義されている:

危機管理とは、リスク・危機をコントロールし最小限に抑制する方法という意味で使用されるのが一般的である。

ここで、そもそも「危機」とは何を指すか定義する必要がある。明確な定義がなければ、そもそも「管理」すべき対象を見失うこととなるためである。

1.1.          危機の定義

危機という語は、通常は「(何かが)危ない」ことを指し、その対象は比較的多岐にわたると考えられる。

本マニュアルでは、危機の対象として以下を想定する:

・人

-選手およびその関係者

-本協会役員・職員

・組織

-本協会および各種委員会等。

また、危機的な状況として、その存続が断たれる場合やそれに近い状態、を指すこととし、具体的には下のような状況に陥ることを想定する:

・物理的危機

-(人)死亡・負傷により選手・役員等としての活動が継続できない状態

-(組織)災害による事務局の損壊等により組織的な活動が継続できない状態

・ソフトウェア的危機

-(人)不祥事・スキャンダルによりその地位を追われる等によって活動の継続が困難な状態

-(組織)不祥事・スキャンダルにより、いわゆる「炎上」対応のために通常業務が困難な状態

-(組織)危機という語は、通常は生命の存続が危ぶまれる状況を指すと考えられるが、実際には以下のような事態を指すと考えるべきであろう。

・選手・役員などの関係者

-事件・事故に巻き込まれることにより活動の継続が危ぶまれる事態

-不祥事等により活動の継続が危ぶまれる事態

・協会

-災害による事務局オフィスの損壊など、ハードウェア的に運営の継続が困難となる事態

-不祥事による公益団体認定の取消しなど、ソフトウェア的に運営の継続が困難となる事態

1.2.          危機の管理

このように、危機とはその内容は多岐にわたり、危機に巻き込まれる結果様々な損失を被るものである。 そこで、この損失を未然に防ぎ、あるいは減殺する必要があり、これを目的とした一連の活動を危機管理と呼ぶ。

その具体的な方法として、モデル危機管理マニュアルでは以下の 3 つが挙げられている:

I.将来生じるかもしれない事故・紛争やトラブル等不幸な事態によって生じ得る精神的・経済的損失を未然に回避する手法

Ⅱ.仮に危機を回避できなかった場合でも、次善の策として被害の拡大を防止又は軽減し、被害を最小限に食い止める手法

Ⅲ.既に発生してしまった紛争・トラブルについて、有効かつ効率的な対処を検討・策定し、それ以降同様の紛争・トラブルを発生させない手法

これらはすなわち「事前予防」「ダメージコントロール」「事後予防」と呼ぶべきものである。 以降、それぞれについて述べる。

1.3.          事前予防

危機管理において、最も重視されるべきものがこの事前予防である。モデル危機管理マニュアルにある通り、「損失を未然に回避する」手法を指す。

そのために、協会は以下の各項目について、方針を決定した上で実践を担保しなければならない。

・危機の定義

・対象範囲の決定

・危機発生時の方針の決定

・危機管理に関する周知啓蒙

・未然の危機への対処

・訓練と検証

1.4.          ダメージコントロール

危機発生時のダメージを軽減するには、事前予防の段階で策定した連絡体制・アクションリスト等が十全に機能することはもちろん、実際の事象に応じて臨機応変な対応が必要となる。

1.5.          事後予防

実際に危機や危機につながる恐れのある事象が発生した場合には、事象に係る経緯や反省点を整理するとともに、その後にそれまでの危機管理体制に修正を加える必要があるか否か、検証するいわば好機である。

つまり、いわゆる PDCA サイクルのうち、事前予防が P=Plan、ダメージコントロールが

D=Do、であって、事後には C=Check および A=Act を進めるべきである。

危機が協会内部に起因するものである場合、その発生原因に係わる者がこの再評価に関与することもあるだろう。しかし、そのような場合でも客観的に評価を進め、協会が組織としてより頑健な危機管理体制を維持できるよう努めなければならない。

2.   危機管理の具体的内容

これまでの議論に基づき、協会としての危機管理およびその体制について説明する。

先述の通り、危機管理の多くは実際に危機が発生する前の準備が占めている。 以下、発生前、発生時、発生後のそれぞれに分けて述べる。

2.1.          事前予防:危機発生前の危機管理

本項では、事前予防として、実際に危機が発生する前の段階で行うべき危機管理について述べる。

2.1.1.        危機として想定する対象とその程度

危機管理を論じるにあたり、危機としてどのようなものを想定するか、事前に検討しておく必要がある。 ここでいう想定とは、

何に対する危機であるのか、すなわち「範囲」の想定。

どの程度の危機であるのは、すなわち「程度」の想定。

を含む。以下、危機として想定する範囲と、その程度(クライシスレベル)について説明する。

2.1.2.        危機として想定する範囲の決定

危機として想定する範囲を以下の通りとする。 ここでは、危機の程度については考慮せず、どこに危機が及んだ場合に協会にとっての危機として扱うか、を考える。

まず、危機の種類に基づいて範囲を定める:

事件・事故

協会内、協会外の何者かによって引き起こされた事件または事故を指す。ただし、協会関係者が巻き込まれたもののみを対象とする。

天災

地震、台風などの自然災害を指す。自然災害による影響は、大きく以下の 2 つに分類することができる。

協会ビルや各種大会会場が罹災するなど、物理的なインフラ・設備に危機が及んだ場合を指す。

協会関係者が罹災し、人的被害が想定される場合を指す。

不祥事

協会・協会関係者(役員・事務局員)・選手・コーチ・地方協会関係者等による不祥事を指す。

当事者自身が協会に関係する者であることから、すべての不祥事が対象となると考えるべきである。

上記のうち、人的・組織的な範囲として、以下の者が該当する。

協会関係者

理事

事務局および事務局スタッフ

執行役員および各委員会委員

選手

チームスタッフ

場合によっては、スポンサー等の利害関係者(ステークホルダ)も対象として考える必要がある。

2.1.3.        危機として想定する程度(クライシスレベル)の決定

クライシスレベルは、以下の基準に従って判定する。 ここでは、危機の種類ごとに、そ

の性質に合わせて、どのような基準で誰がレベルを判定するべきか、という観点で整理する。

・事件・事故

判定責任者:危機管理室⾧(協会主催行事中の事件・事故については当該行事の危機管理責任者)

危機の例:

代表選手が飲酒運転をして逮捕された

大会中に観客がケガをした

大会への移動中に選手が交通事故にあった

事故によって協会の備品が大破した

クライシスレベル高の例

•     協会関係者が刑事事件の加害者になっている 

クライシスレベル中の例

事件事故によって生命及び身体への危険性が高い

協会が主催する大会・イベント等によって生じた事件・事故

事件・事故による経済的な被害が100万円を超える

クライシスレベル低の例

協会の活動とは無関係な事件・事故

自然災害、感染症

判定責任者:危機管理室⾧(協会主催行事中の自然災害については、当該行事の危機管理責任者)

危機の例:

東日本大震災級の大地震

新型コロナ、新型インフルエンザ

大型台風

クライシスレベル高の例

•     協会主催行事中に自然災害等が生じた場合

クライシスレベル中の例

協会主催行事がない間に自然災害等が生じ、その影響が1か月以上続くことが見込まれる場合

協会主催行事の直前に自然災害等が生じることが予測される場合

クライシスレベル低の例

協会主催行事がない間に自然災害が生じ、その影響も一過性のものであると見込まれる場合

経済的損害

判定責任者:危機管理室⾧

危機の例:

スポンサーの撤退

補助金の不承認

利益が出てしまった

クライシスレベル高の例

•     経済的損害が 100 万円を超える

クライシスレベル中の例

•     経済的損害が50万円を超える

クライシスレベル低の例

経済的損害が50万円以下

信用上の損失

判定責任者:危機管理室⾧

危機の例:

役員による協会の金員の使い込み

金員の不透明な支出

利益相反取引

協会内部におけるパワハラ・セクハラ

不透明な代表選手選考

SNS トラブル

協会関係者の私生活に関するトラブル

個人情報の流出

クライシスレベル高の例

協会の規定違反行為

特に重要な個人情報が流出した場合

クライシスレベル中の例

•     個人情報が流出した場合

クライシスレベル低の例

協会関係者の私生活に関係するもの(個人 SNS の管理含む)

人的危機

判定責任者:危機管理室⾧

危機の例:

労働者からの労働争議または訴訟提起

選手、コーチからのスポーツ仲裁申立

役員間の内紛

第三者から協会に対する訴訟提起

コーチ、トレーナとの間の金銭トラブル

労働者が協会の金員または備品を横領した場合

クライシスレベル高の例

協会が被告(相手方)となる訴訟提起またはスポーツ仲裁申立

第三者(コーチ、トレーナーを含む)との間のトラブル

クライシスレベル中の例

•     協会内部のトラブル(役員間、及び対労働者)

クライシスレベル低の例

•     (検討中)

2.1.4.        危機管理体制

事前の危機管理として、その体制を明確にしておく必要がある。

理事会

協会の最高運営決定機関として、平時を含めて危機管理を進める責任がある。

多くは危機管理に係る方針の決定(あるいは上程された方針の承認)が占める。具体的には、後述する危機管理委員会や危機管理室に関する事項の決定、および事務局等を含めた連絡体制の構築・維持・運用等に関する方針の決定である。

危機管理室

危機発生時に、特に重要となる事項については理事会の決定を待たずに迅速な対応を可能とすべきである。そこで、危機管理規程では、以下の者からなる危機管理室を設置することとし、危機発生時には危機管理室が中心となって危機管理を執行することとしている。

危機管理担当理事

総務委員⾧

コンプライアンス委員⾧

事務局⾧

監事

危機管理委員会

危機管理規程において、平時の危機管理を進める実働組織として危機管理委員会が定められている。協会の各専門委員会・特別委員会と同様に定常的な活動により、協会の危機管理体制の維持強化を図る。

連絡体制

ここまでに挙げた各機関と、事務局、および、実際に危機に遭遇した者との間での連絡体制を準備しておく必要がある。この体制の整備が不十分である場合、実際に危機が発生した際に連携した対処が難しくなり、危機管理の方針が絵に描いた餅となってしまう危険がある。

2.1.5.        危機発生時の方針

危機発生時にどのような方針で行動すべきか、事前に策定する。

危機管理室⾧

メール:

危機管理室⾧に転送されるよう設定する。

メールが使用できない事態に備え、別の手段も確保しておくべきである。

例:SMS、LINE 等の IM ツール、Facebook 等 SNS の DM 機能、等

–     危機管理室⾧自身に危機が及んだ場合に備え、事務局または危機管理委員会において転送先の変更が容易に可能なよう準備しておくべきである。

危機管理室

メール:

危機管理室員に転送されるよう設定する

危機管理室員を急遽入れ替える必要が出た場合に備え、事務局または危機管理委員会において転送先の変更が容易に可能なよう準備しておくべきであ

る。

事務局

メール:

協会主催イベントにおける危機管理責任者

各協会主催イベントにおいては、当該イベントの中で発生した危機に対処するために危機管理責任者を置く。

危機管理責任者は、危機管理に精通した危機管理室員または危機管理委員会委員であることが強く望まれる。

その他

消防

警察

アクションリスト

初動

危機の発生を発見した者が初動をとることとなる。

協会主催イベントの中で危機が発生した場合は、イベントにおける危機管理責任者に速やかに通報する。

協会主催イベント以外で危機が発生した場合は、危機管理室⾧および事務局に速やかに通報する。

クライシスレベル判定

通報を受けた危機管理責任者または危機管理室⾧は、クライシスレベルの判定を行う。

判定されたクライシスレベルは、危機管理室を通じて協会および協会関係者に通知され、危機管理室の定めた方針に従って爾後の対処を行う。

危機発生後、事態の推移に従ってクライシスレベルが変動しうる点に留意すべき

報告・公表に関する事項

危機発生時、報道機関等を通じた公表は速やかに行われるべきであるが、後の影響を考慮しその内容については慎重に検討しなければならない。

公表は、危機管理室⾧または危機管理室⾧が指名した者のみが行い、それ以外の者は対外的な公表や報道対応をしてはならない。

2.1.6.        危機管理に関する周知啓蒙

危機管理は、理事会・危機管理委員会等が中心となって進めることとなるが、一方で、それ以外の協会関係者についても危機管理に関する理解が求められる。 そこで、平時において危機管理に関する協会関係者への周知啓蒙が必要となる。役員等、特に協会運営の核となる者への周知徹底

特に理事、執行役員、事務局職員、危機管理委員会委員については、危機が発生した際に、主体的に行動することが求められる立場にあるため、危機管理について精通していることが求められる。

これらの者は、危機管理がどのような考えのもと、どのような体制で行われるのか、を含めた全体像について理解を深めておくべきである。 そのために、周知啓蒙のための資料等

(本危機管理マニュアル等)の整備のほか、研修などによる周知の機会を設ける必要がある。

対象となる人的範囲への周知

危機管理にかかわる人的範囲は、前項に挙げた者に限られず、むしろ協会の活動に関与するもの全員がその対象になると考えるべきである。 これら全員が協会活動の中で危機的事象に遭遇する可能性があり、その際、危機管理に関する知識を持ち合わせていない場合には大きなトラブルにつながるリスクがあるためである。

ただし、その周知の内容や方法については、前項に挙げた者に対するものとは異なり、要点を押さえた簡潔なものとするのが良い。

マニュアルの作成や配布など、周知の方法の決定

上述したマニュアル等の資料を、どのように協会関係者に配布するのが良いか、慎重に検討すべきである。 単に作成して配布するだけでは、関係者の目に入らずに終わってしまう可能性がある。研修機会を設けてその場で配布するなど、工夫が必要である。

このような実践的な部分についての計画は、主に危機管理委員会が中心となって進めることとなる。

危機管理マニュアル等の作成・維持

危機管理の方針は、例えば新型コロナウイルス感染症の出現、国際紛争の発生など、状況の変化に応じてその内容を見直していくものである。 したがって、本マニュアルを含めた資料についても、一旦作成すればよいものではなく、定期的な見直しが必要である。

危機管理委員会が中心となり、5年に一度を目安に内容の更新を図る。

研修の実施など、啓蒙の方法の決定

協会は、危機管理の方針やマニュアルの内容について、研修などを通じて協会関係者に周知啓蒙を進める。 その具体的な方法については危機管理委員会が中心となって検討する。

2.1.7.        未然の危機への対処

事前予防は、単に方針の決定や周知啓蒙を進めるだけでは足らず、発生を防止・抑制できる危機についてはその発生を抑え、そうでない危機についてはその影響を抑えるための活動が含まれる。

そのうちの 1 つが、いわゆる「ヒヤリハット」事例を題材にしたものである。

「ヒヤリハット」とは、トラブルが発生するには至らなかったがそれに近い状況に陥ったことを指すものである。 ヒヤリハット事例を収集・検証することで、そのような事態となった原因をみつけ、それがより大きな危機につながる可能性のあるものかどうか、可能性がある場合はどのようにそれを防止・抑制できるか、について知見が得られることが期待される。

得られた知見は、危機管理に関する方針や危機管理マニュアルの反映することができ、特に予防に関する危機管理体制の充実が図られる。

2.1.8.        訓練と検証

ヒヤリハット事例に基づく対応が「実際に発生した軽微な事象」を元とするのに対し、「実際には発生していない重大な事象」を元として検証と更新を行うのが、訓練である。

いわゆる避難訓練と同様に、実際には発生していない危機が発生しているものと仮定して実際に発生した場合と同様の行動をとる。 これにより、連絡体制や各部署の行動、協会関係者の動き等を検証し、潜在している問題点の洗い出しと、危機管理体制の検証と更新を進める。

検証の対象には、上記に挙げた行動面のものの他、規程類の整備状況、外部ステークホルダとの連携、等も含まれると考える。

2.2.          危機発生時の危機管理

本項では、実際に危機が発生した際に行うべき危機管理について述べる。

2.2.1.        ダメージコントロール:危機による影響の最小化

実際に危機が発生したときに取るべき危機管理とは、危機によるダメージの最小化に尽きる。

ここでいうダメージとは、先述した通り、物的・人的・経済的・社会的なものを指すが、場合によってはそれらのうち 1 つを守ることが他のダメージを増加される可能性もあり、ダメージ最小化についてはどのダメージを最優先とすべきか、場合に応じた判断が必要となる。(とはいえ、人的ダメージ最小化が最優先であることはいうまでもない)

したがって、状況を可能な限り正確に把握したうえで、優先すべき事項を決定し、それに基づいて行動方針を策定する、といった手順が取られるものと考えられる。 以下、具体的な方針について述べる。

2.2.2.        連絡体制の構築

危機発生時には、危機発生の現場と、方針を決定する危機管理委員会、そのほか各関係部署との間で緊密な連絡を取り合う必要がある。 そのため、各部署への連絡方法を確認することとなるが、これは実際に危機が発生してから検討するのでは間に合わず、したがって事前に連絡体制について検討したうえで周知が必須となる。

また、危機発生に応じて、協会において危機管理室を立ち上げることとなる。 爾後の方針決定は、この危機管理室が主体となって進めていく。

2.2.3.        状況の把握

危機管理室は、危機発生直後から状況の把握を確実に行う。 把握した状況を対外的に公表するか否かの判断は後に行うこととなるが、危機管理室は、できるだけ多くの情報を収集し、収集した情報に基づいて判断を下すべきである。

2.2.4.        方針の決定

収集した情報に基づいて、危機管理室は方針を決定する。

決定すべき方針には、次項以降のものが含まれるが、ここで留意すべきは、憶測や希望的観測等に基づいた決定は、事態を悪化させる危険性を含んでいる点である。これを避けるために、情報収集は十分すぎるほど行うべきであると考える。 一方、人的被害や、その他重大なダメージを引き起こす可能性がある場合には、正確性・確実性よりも迅速性が優先されることも多く、そのような場合には必要に応じて有する情報のみに基づいて判断を下す必要がある。

危機として対処すべきか否か

そもそも、危機として対処すべきか否かを検討する。 仮に協会への影響が無視できる程度であり、危機としての対処が不要であると判断された場合には、その旨を決定して危機管理室を閉じることになる。

ただし、その後事態の推移によっては再び危機として対処すべき状況となる可能性があるため、注視が必要である。

対処の中心となる担当者

危機の種類によっては、方針の決定等を統括するにあたって柔軟に担当者を決定する。例えば協会イベントの最中に発生した危機であれば現地にいる危機管理室員が最適である可能性もあり、担当理事自身が危機に巻き込まれている場合など、そもそも統括ができない・すべきでない状況も考えられる。

平時から、危機管理の統括を行えるよう、危機管理室員全員がその準備を怠らないことが肝要である。

基本的な対処方針

危機管理にあたって、基本的な方針、すなわちどのように事態を解消・誘導し、どのような状態になれば危機を脱したと考えるか、そのために何を優先して進めるか、等を検討する。

災害等の場合は全員の安全が確保され、イベントに関するものであれば当該イベントの扱いが決まるまで。 不祥事等の場合は、対象者の処分や対外的な説明・報告が完了した時点で一定の収拾をみたと言えるだろう。

対外的発表の要否・内容・タイミング

危機の種類によっては、対外的な公表が必要となる場合がある。 例えば役員の不祥事など社会的信用がかかわる場合、公表せず秘匿することでさらに事態を悪化させるリスクがある。

一方で、対外的に公表すべき内容は慎重に検討しなければならない。 どこまで情報を公開するか。協会として危機に対する見解をどのように定めるか。誰がどのタイミングで公表するか。いずれも「着地」の成否に関わる要点である。

この観点については、他団体における不祥事など、参考とすべき事例は(残念ながら)多数存在している。 特に理事など重要ポストにある協会関係者は、平時から対応について学んでおく必要があるだろう。

2.2.5.        危機解消への行動

危機の種類により、危機解消への行動は異なる。 例えば自然災害等であれば、安全な場所へ速やかに退避することが最優先となるが、不祥事の類であれば状況の把握を優先するべきである。

一歩ずつ解消に近づきながら、一歩進むごとに情報を収集して方針を見直す作業を繰り返すことになる。

2.2.6.        事後処理へ向けて

危機が解消したと考えられたとき、危機管理室はその一連の経緯について報告をまとめた上で、危機管理室を閉じることとなる。 この報告は、事後処理に用いるとともに、今後の危機管理体制を改善する恰好の材料であるから、できるだけ多くの情報を盛り込み記載するのが良い。

特に不祥事の場合など、協会内部の利害関係者について記載することにもなるが、材料として活用することを視野に入れ、客観的で公正な記述に努めたい。

2.3.          危機発生後の危機管理

本項では、危機が解消し、平時の体制に復旧した後に行うべき危機管理について述べる。

2.3.1.        危機に関する情報整理と報告

危機発生時にも、最終的な方向として情報の収集と整理を行うが、危機が去ったあとに改めて危機に関与した協会関係者から聞き取りをするなど、危機当時に見えなかった情報を集めておくことには価値がある。 危機発生時に、直接関与していなかった者にしか見えていなかった部分、後になって冷静になったうえで考えるとより良い解決方法があった、等、事態が落ち着いたからこそ集められる情報や意見などは多いものと考える。

特に大きな危機が去った場合には、これらを集積して報告書の形でまとめておくことで、次項に示す危機管理体制の改善につなげることも可能となる。

2.3.2.        事後予防:教訓としての活用

事前予防の項で挙げた「ヒヤリハット」や訓練と異なり、実際に起こった危機に関する情報は、危機管理体制の改善に向け、協会にとって最もリアルな題材である。

初動に問題はなかったか、方針としてより良いものはなかったか、もっと短期間に危機を解消できる方法があったのではないか、公表すべき情報を公表しなかったことで事態が複雑化しなかったか、等多面的に分析を行い、改善できる個所を新しい危機管理体制に盛り込む。

教訓として活用することが、次の「事前予防」につながり、次の危機発生時には、より適した対応が可能となるだろう。

3.   危機発生時の行動指針

実際に危機が発生した場合には、協会関係者は以下の指針に基づいて行動する。 

•     アクションリスト

–     初動

•     全員:上司もしくは危機管理室⾧(通常は専務理事)に連絡を取り、危機の発生を通知する。

–     関連する事前準備:危機管理室⾧への連絡手段の確立

 

•     上司:部下から危機発生の連絡を受けた場合は、その旨危機管理室⾧に通知する。

–     関連する事前準備:危機管理室⾧への連絡手段の確立

 

•     危機管理室⾧:危機管理体制の発動要否を判断する。危機管理体制を発動する場合は、その旨を全協会関係者に通知する。

–     関連する事前準備:全協会関係者へのアナウンス手段の確立

 

•     クライシスレベル判定

危機管理室によるクライシスレベル判定

 

連絡体制

事前に準備した連絡体制に基づく。

•     万一危機が連絡体制事態に及んだ場合には、事前に準備した代替手段による。

関連する事前準備:連絡手段のバックアップの確立

内部向け公表

速やかに内部協会関係者に危機の内容、状況、等を公表する

ただし、外部秘にすべき内容についてはその旨明示する

次項参照

外部向け公表

•     情報の錯綜を避けるため、外部向け(会見・プレスリリース、取材対応、官公庁対応)の公表を行う者を限定する

関連する事前準備:外部向け公表担当者の選定

外部秘とする情報

「プライバシー」と「説明責任」のバランスに留意する

情報公開の基準

原則として、プライバシーに関わる内容を除き、公開することが望ましい。

不祥事

内容の公表→実際の氏名を伏せた上で公表

処分内容→同上

処分対象者→同上(人数など)

–     事件・事故

事件・事故の内容→本協会と関係のある事実、公益性が高いと認められる事実及び公知の事実については公表する

被害者の情報→原則として被害者の同意が得られない場合には公表しない

–     天災

事件・事故の内容→本協会と関係のある事実、公益性が高いと認められる事実及び公知の事実については公表する

被害者の情報→原則として被害者の同意が得られない場合には公表しない

–     共通

発生経緯

現状

今後の対応

次の情報公開のタイミング

–     べからず

•     責任転嫁

–     他者等がこうしなかったのが原因、「やむを得ず」「仕方なく」、等

•     その場しのぎ

–     明確な回答ができない事項を曖昧に開示・回答